アート

Posted on 2016-09-26
「さいたまトリエンナーレ2016」 アーティストの想像力に触れ、自分ごととして未来を見つめる





 


《無題(枕)》 Untitled (Pillows) マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチ

つまらないと思っていた日常風景が、アートによってキラキラ輝き始める
これまでとはひと味違う芸術際が、さいたま市で開催されています。2016年9月24日(土)から12月11 日までの79日間にわたって開催されている「さいたまトリエンナーレ2016」です。

近年、全国で数多くの芸術祭が開催されるようになりました。その多くが大都市や自然の豊かな地域で開かれる芸術際ですが、「さいたまトリエンナーレ2016」は127万人の人々が暮らす“生活都市”を舞台にしていることが特徴です。

さいたまトリエンナーレ2016 ディレクター 芹沢高志氏は「さいたま市は新旧の住宅街が広がり、生活の現場、人が住む場所です。しかも縄文期から途切れず人が暮らし続けてきました。ずっと生活の現場であり続けてきたという事実。そこから日本有数の“生活都市”である位置づけ、芸術祭を組み立てていこうと考えました」とコメントしています。

さいたまトリエンナーレ2016のテーマは“未来の発見!”です。世界は今、これまでの構造が揺るぎ始め、私たちは未来が見えにくくなってきました。芹沢氏は「こうしたときだからこそ、私たちは想像の力を羽ばたかせ、自分たちが生きていく未来を、自分たち自身で、足下から見つめ直していくことが求められています」と話します。

アートには、想像の力によって、現実の別の姿、もうひとつの風景、思ってもいなかったような可能性などを眼前に浮かび上がらせる力があります。

つまらないと思っていた日常の見慣れた風景が、アートによって突如、キラキラと輝き始めることがあります。芹沢氏は「アートとは心の姿勢に働きかけるものです。そして心の姿勢が変わるなら、今を生きるこの場所、この生活に意識が向かい、ひとりひとりが自分のこととして世界に関わり始めます。そんな心の変容の瞬間を“未来の発見!”と呼びたい」と言います。

アート作品を見るのは一部のプログラムを除いて無料。会期中何度でも作品に接して、アーティストの想像力を自分に引き寄せ、自分ごととして楽しみながら、未来を考えてみるのはいかがでしょうか。

さいたまトリエンナーレ2016
テーマ
未来の発見!
会期 2016年(平成28年)9月24日(土)~12月11日(日)[79日間]
主な開催エリア
(1)与野本町駅~大宮駅周辺
(2)武蔵浦和駅~中浦和駅周辺
(3)岩槻駅周辺

会場には想像力をかきたてられる作品がたくさん展示されています。そのいくつかを紹介しましょう。

この記事の冒頭にあったのは、スロヴェニア生まれの作家マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチの《無題(枕)》 Untitled (Pillows) 。マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチは普段見過ごしてしまいがちなありふれた場所を、ありふれた素材で埋め尽くすことで、その地域の伝統や歴史を視覚化させています。今回は、旧民俗文化センターの中庭を枕で埋め尽くしました。同じ形状の素材が単純にしかも大量に反復されいる光景は、どこか厳粛な気持ちになります。

次は、今は使われていない区役所の地下食堂・厨房で紹介されている映像作品です。


《映像演劇 op.1 椎橋綾那》 EIZO-ENGEKI op.1 Shiibashi Ayana 岡田利規

大宮区役所の地下には、今は使われていない厨房と食堂があります。そこを舞台に、モノローグの映像作品を写し出しています。使われなくなった暗い厨房と食堂に浮かび上がる映像。暗い空間に入った瞬間から、圧倒的な非日常な体験をからだ全体で感じました。

作品を鑑賞する厨房はこんな感じです。

おおみや区役所の外観。水平と垂直で構成されたファサードは、シンプルでスタイリッシュな印象です。同時に昭和という時代の香りもするデザイン。老朽化により取り壊しが決まっています。

次は、公園に突然現れた巨大エアドーム。


《エアードーム:さいたまトリエンナーレ2016》 Air Dome Saitama Triennale 2016  磯辺行久

街中の公園に突如現れた巨大なエアードーム。磯辺行久は1970年、アメリカで開催された第1回アースデイにおいてエアードームを出品しました。今回の作品はそのさいたまトリエンナーレバージョンとも呼べるもの。普段の見慣れた光景は、巨大ドームの出現により一変します。ドームの中に入ることも可能。内部は空気感が外とは違い、エアードーム特有の空気が流れるような音もします。ぜひ中に入って、これまで感じたことのない空間体験を味わってください。

この公園に隣接して市民会館おおみやがあります。そこでも展示が行われています。


《雫》 DROPS 秋山さやか

秋山さやかは6月6日から9月下旬まで大宮区に滞在。日常生活を営む間に出会った“さいたまで見つけた物”をつなぎあわせて作り上げたインスタレーションです。自分から自分に向けて出した手紙は、作品の重要な要素となっています。作品を構成する素材ひとつひとつに、作家の記憶が宿っていることを感じます。

市民会館おおみやの旧地下食堂では、今は使われていない厨房で小野養豚んの「食堂展」が開催中。展示作品「BORN TO LIVE」のモチーフである梅山豚(メイシャントン)は最高級豚肉となる希少品種の豚です。


小野養豚ん 食堂展

秋山さやかの《雫》の展示や「小野養豚ん 食堂」展が行われている市民会館おおみや小ホールの入口。

サインやフォントのテイストは昭和のまま。建物内部の意匠も昭和テイストがそのまま残っています。今接すると懐かしさだけではなく、心地よさも感じます。


《息をする花》Breathing Flower チェ・ジョンファ

チェ・ジョンファは韓国を代表する現代アーティスト。《息をする花》は、その名のとおり、ゆっくりと呼吸を繰り返す蓮の花の巨大オブジェ。花の直径は約4m、高さは最大約2.5m。


《ハッピーハッピー》Happy Happy チェ・ジョンファ

これも《息をする花》を制作したチェ・ジョンファの作品。《ハッピーハッピー》は世界各都市で制作・展示されてきたチェ・ジョンファの代表的なシリーズ作品です。新品あるいは使い終わったプラスチック日用品をつなぎあわせて作品に仕上げています。2016年の夏にさいたま市内で行われたワークショップで、一般参加者が作ったものです。日用品がその用途を離れ、造形作品として生まれ変わりました。アート作品は特別なトレーニングを受けた一部の人だけでなく、誰もが制作できることを伝えているようです。




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