アート / 出版

Posted on 2017-04-15
【レビュー】「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」静嘉堂文庫美術館


挿絵の力の魅力を明・清時代と江戸時代の書物で堪能
中国・日本の古書の楽しさが堪能できる展覧会が東京・世田谷区岡本の静嘉堂文庫美術館で開催中です。「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」(会期:2017年4月15日~5月28日)は、「挿絵」にテーマを当てて、日本の江戸時代および中国の明清時代の本の中から多彩な挿絵本を選び展示しています。

会場は、
Ⅰ神仏をめぐる挿絵
Ⅱ辞書・参考書をめぐる挿絵
Ⅲ解説する挿絵
Ⅳ記録する挿絵
Ⅴ物語る挿絵
の5セクションで構成されています。

静嘉堂文庫 主任司書 成澤麻子さんは、今回の展覧会を企画した背景について、次のように話しています。

「新聞に連載小説を執筆しているある作家が、挿絵によって小説のストーリーを変えていくことがあるということを聞いて、挿絵の力に改めて気付かされたのが企画の原点です」

文字ばかりの資料の展示だと、その道の専門家か、よほど好きな人でないと見るのはおっくうになりがちです。しかし、挿絵が入っていると、ただ眺めているだけでも楽しみながら、書物の世界に入っていけるのが嬉しいです。

静嘉堂文庫美術館(東京・世田谷)は、和漢の古典籍およそ20万冊と東洋古美術作品約6500件を所蔵する美術館です。開催する展覧会では、日本や中国の作品や資料を、歴史的なアプローチを交えながら紹介していくのが特色です。

今回の「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」は、和漢の古書を豊富に持つ静嘉堂文庫美術館だからこそ実現できた企画だと言えるでしょう。

展示されている挿絵は、今の感覚から見ても、とてもクリエイティブ。インターネットや紙媒体に関わるメディア関係者をはじめ、デザイナーなどビジュアル系を仕事している人にとっては、文字とビジュアルの関係性を考えるにあたって、たくさんのインスピレーションを感じるにちがいありません。もちろん、中国や日本の歴史が好きな人、書誌学など書物に関心がある人にとっても、得るものが多い展覧会でしょう。

※会場写真は、4月14日に行われたプレス内覧会で撮影(Photo:Media &Communication編集部 宮川由紀子)

挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~
会期
 2017年(平成29年)4月15日(土)から5月28日(日)まで
会場 静嘉堂文庫美術館
観覧料 一般1000円、大・高生700円、中学生以下無料

今回展示されている作品の一部を紹介します。※画像の無断掲載はご遠慮ください。

下の作品は『妙法蓮華経変相図』(中国・〔南宋時代前期(12世紀)〕写 静嘉堂文庫蔵【全期間展示】)です。

法華経(妙法蓮華経)の中で説くさまざまエピソードを絵で分かりやすく表しています。絵のテイストがとても親しみやすいです。

下は『纂図互註礼記』(中国・漢鄭玄注 唐陸徳明釈文 南宋時代(12世紀前半~13世紀後半)刊 静嘉堂文庫蔵【全期間展示】)です。

科挙(中国の官吏登用試験)の受験用参考書として作られたもの。「礼記」(「らいき」と読む)は儒教の経典のひとつで、礼儀作法に関する書物です。儒教的な考えにおいて、礼儀作法は国家や社会の秩序を維持するための根本的な規律です。

下は『環海異聞』(大槻玄沢編 江戸時代後期(19世紀)写 静嘉堂文庫蔵【全期間展示】)です。

江戸時代の寛政5年(1793年)、石巻から江戸へ向かった船が難破し、アリューシャン列島の島に漂着しました。帰国した乗組員からロシアの様子を聞いて、編者である大槻玄沢(仙台藩医)の知見を補って著した書物です。

ほかにも、挿絵が楽しめる書物がたくさん展示されています。




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