アート

Posted on 2017-04-26
【美術展レビュー】ブリューゲル「バベルの塔」24年ぶりに来日した超絶技巧の傑作




展覧会会場エントランス。どんな作品と出会えるのか、期待に胸がふくらむ。


旧約聖書に出てくる有名な建築物
ピーテル・ブリューゲル1世の最高傑作「バベルの塔」(ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館所蔵、1568年頃)が24年ぶりに来日し、東京都美術展で開催中の「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝 ―ボスを超えて―」で展示されています(会期:2017年4月18日~7月2日)。

ブリューゲルは16世紀におけるネーデルラント(現在のオランダとベルギーにまたがる地域)を代表する画家です。美術史に大きな足跡を残す巨匠ですが、現存する油彩画は40点あまりと少なく、日本で美術展を開くのが、もっとも難しい画家のひとりと言われています。

ブリューゲルが描いた「バベルの塔」は2つあり、ひとつは今回来日したボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館所蔵のものです。もうひとつは、ロッテルダムのボイマンス美術館に所蔵されています。

バベルの塔は、旧約聖書に出てくる建築物です。旧約聖書にはこんな物語があります。

かつて世界中の人々は同じ言葉を話していました。シンアルという町の人たちは自分たちの町を有名にしようと、天まで届く塔を建てようとします。しかし、それを知った神は怒ります。神はひとつの言葉を話しているからこんなことを起こすと考え、互いに言葉が通じないようにしてしまいます。意思疎通ができなくなった人々は散り散りになり、結局、塔は完成することができませんでした。

バベルの塔は旧約聖書に出てくる有名な建築物であるにもかかわらず、これをモチーフに油彩画を描こうとした画家はほとんどいなかったと言います。

その理由について、今回の展覧会の学術監修を努める青山学院大学の高橋達史教授は、「あえて単純化して言えば、ルネサンスにおける人文主義思想の台頭以降は「人間のドラマ」、人間が主役を演じている物語が当然のように優遇され、数々の事物を伴うとはいえ生命を欠く建築物が主役の絵は独立した鑑賞用絵画には不向きだとされた、あるいは野心に燃える画家たちの意欲をそそらなかったから」と、今回の展覧会の図録に書いています。

なぜブリューゲルはバベルの塔を描こうとしたのかを考えながら鑑賞してみるのもいいかもしれません。

ブリューゲルの「バベルの塔」。2階エリアに展示されている。



東京藝術大学が300%拡大のバベルの塔を制作
今回来日した「バベルの塔」のサイズは59.9×74.6cmと、それほど大きなものではありません。そこに、建設に携わる人や塔を登って行く人など、約1400人もの人々が数ミリの小ささで描かれています。

レンガを吊して上げる機械や建設中の塔に架けられた足場なども細かく描き込まれています。まさに超絶技巧です。肉眼で見えなくもないですが、作品から少し離れると見えにくいところもあるので、鑑賞するには単眼鏡があると便利かもしれません。

ブリューゲルの「バベルの塔」が展示されている同じフロアには、「バベルの塔」を約300%に拡大した複製作品が展示してあります。

これは、東京藝術大学が制作したものです。オランダのデルフト工科大学が開発した蛍光X線装置を使って、「バベルの塔」の絵の具を詳細に分析。その分析情報をもとに、東京藝術大学が一部の組成をオリジナルと一致させた、極めて精緻な複製の制作に取り組みました。

オリジナルの「バベルの塔」が描かれているオーク材の質感、ブリューゲルの筆のタッチ、凹凸の質感などを再現しています。

こちらはブリューゲルの作品よりも大きく、近づいて見ることができるので、ブリューゲルの超絶技巧が見やすくなっています。こちらのバベルの塔をじっくりと鑑賞するのもオススメです。

バベルの塔は一見すると8層から9層構造で、8階から9階建てのビルと同じくらいの高さと思いがちです。しかし、絵に描かれている人物の大きさなどをもとに、塔の高さを割り出すと、なんと500m以上になります。これほどの高さですから、塔の上部に雲がかかっているのもうなずけます。

東京でも昔から「塔」が建設されました。江戸時代は五重の塔(現在の上野公園に現存)、明治時代には浅草に12階建ての「凌雲閣」、昭和には「東京タワー」、平成は「スカイツリー」と、各時代を象徴するような「塔」が建設されています。

塔には人を引きつけて止まない魅力があるようです。今回のバベルの塔も、東京の各時代の塔に引き寄せながら鑑賞するのも楽しいかもしれません。

今回の展覧会では、奇妙な図像を数多く描き、今でも多くの人々を虜にしているヒエロニムス・ボスの作品も展示されています。ボスの作品も見応えたっぷりです。記事を改めてボスのレビューを書いてみたいと思います。
(TEXT:蓬田修一、PHOTO:宮川由紀子 Media &Communication編集部)


ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝 ―ボスを超えて―
会期
 2017年(平成29年)4月18日(火)から7月2日(日)まで
会場 東京都美術館 企画展示室
観覧料 一般1600円(1400円)、大学生・専門学校生1300円(1100円)、高校生800円(600円)、65歳以上1000円(800円)、中学生以下無料
※( )内の料金は20人以上の団体料金

東京藝術大学が制作した「バベルの塔」の拡大複製。約300%に拡大されているので、精緻に描き込まれた人物などがはっきりと見て取れる。





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