アート

Posted on 2018-11-01
【美術展レビュー】「ムンク展―共鳴する魂の叫び」


展覧会の最大の見せ場「叫び」作品はSection4に
エドヴァルド・ムンクは1863年(江戸・文久3年)に生まれた。父は軍医だった。

1880年(明治13年)17歳の時、画家になる決心をし、クリスチャニア(現在のオスロ)の画学校(現在の王立美術工芸学校)に入学する。

1889年(明治22年)26歳の時、クリスチャニアで初めての個展を開催。この年、パリ万国博覧会にも出品する。

その後、パリ、ベルリン、ニース、フィレンツェなど、ヨーロッパの各地を旅行をし、また住む場所を変えていく。

亡くなったのは1944年(昭和19年)1月、80歳だった。

今回の展覧会は、ムンクのおよそ60年に及ぶ画業を、油彩画約60点と版画など合わせて約100点を通して振り返る大回顧展だ。

ムンクは絵画制作と並行して版画にも精力的に取り組んだ。版画はムンクの生計を助け、また彼の芸術を世界に広める役割を果たした。

エッチング、リトグラフ、木版画など多様な技法に精通し、さらにそうした技法を併用することで、版画の新たな可能性を開き、膨大な作品を残した。

今回の展覧会は、ムンク作品の殿堂と言われる、ノルウェーのオスロ市立ムンク美術館所蔵の作品を中心に、彼の初期から晩年までの作品を一堂に紹介する。

会場構成は、以下のように9つのセクションで構成されていた。

1 ムンクとは誰か
2 家族-死と喪失
3 夏の夜-孤独と憂鬱
4 魂の叫び-不安と絶望
5 接吻、吸血、鬼、マドンナ
6 男と女 愛、嫉妬、別れ
7 肖像画
8 躍動する風景
9 画家の晩年

会場を入ってすぐ、セクション1はムンクの自画像が並ぶエリアだ。地獄の自画像、青空を背にした自画像、スペイン風邪の後の自画像・・・。どの自画像も笑っていない。神経質そうな、苦しんでいるような、そんな自画像たちだ。

各セクションの冒頭にはムンクの言葉が壁に書いてある。セクション1には、こう書いてあった。

「私の芸術は自己告白である。」

会場にある作品を見ている間中、この言葉をいつも思い起こされた。

次のセクション2は、家族を描いた絵が紹介されている。

ソファーに座って新聞を読む父親、母親の妹である叔母、妹の横顔などの絵が並ぶ。

セクション1の自画像とセクション2の家族の絵を見ることで、ムンクのプライベートな部分に近づいた気持ちになった。

セクション3からは、私たちにも馴染みのあるムンク絵画の世界ー孤独、憂鬱、不安、絶望、愛など-が展開される。

「私は見えるものを書くのではない。見たものを書くのだ。」(セクション3冒頭の壁にある言葉)

「見える」ものと「見た」もの。それは大きく違う。今回の展覧会は、ムンクの「見た」世界を、我々が見ているのだ。

そして 、次のSection4が今回の展覧会の最大の見せ場だ。ムンクの作品で、最も有名であろう《叫び》が展示されている。

作品保護のために、かなり照明を落とした広い空間に、《叫び》と《絶望》が並んで配置してある。

《叫び》は、人間が抱える実存的な不安と孤独と絶望の象徴を描いているという。画面の上部には、赤く染まった夕日。画面中央部にはオスロのフィヨルドの情景。これらがうねるような曲線で描かれている。そして中央の人物は、周囲からは孤立するように耳を塞いで、こちらを向いて口を開いている。

次のセクションからも、ムンクの「見た」世界が続く。

そして、今回の展覧会の最後を飾る作品は、《自画像 時計とベッドの間》だ。

危なげに立ってこちらを向いている老人のムンクが、時計とベッドの間に挟まれている絵だ。時計もベッドも死を象徴している。

この絵が最後にあることで、展覧会場を出たあとも、今回のムンク展の余韻に浸ることができた。

ムンクは幼少期に家族の死を体験。その後、ヨーロッパ各地で活動しながら、当時の思想、文学、芸術などに影響を受けながら、人間の内面に迫る独自の画風を確立した。

絶望、嫉妬、孤独などの人間の感情を、これほどまでに強烈に表現した画家がいただろうか。そんなことを考えながら、会場をあとにした。

ムンク展―共鳴する魂の叫び
会期
 2018年(平成30年)10月27日(土)から2019年1月20日(日)まで
会場 東京都美術館 企画展示室
休室日 月曜日 (ただし、11月26日、12月10日、24日、1月14日は開室)、12月25日(火)、1月15日(火)
年末年始休館 12月31日(月)、1月1日(火・祝)
観覧料 一般1600円(1400円)、大学生・専門学校生1300円(1100円)、高校生800円(600円)、65歳以上1000円(800円)、中学生以下無料
※( )内は20人以上の団体料金
※12月は高校生無料
※11月21日(水)、12月19日(水)、1月16日はシルバーデーにより、65歳以上の方は無料。当日は混雑が予想されます。
公式サイト https://munch2018.jp

 手前から《家壁の前の自画像》、《ガラスのベランダの自画像》

各セクション冒頭の壁に記されているムンクの言葉 

 複数の《マドンナ》作品

 左から《目の中の目》、《別離》




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