メディア、コミュニケーション、広告、出版、アートという言葉に反応してしまう人へ。

Media & Communication

HOMESPECIAL_FEATURETOPICSNEWSLINKABOUTBLOG

「出版メディアの近未来」 紙の本にこだわりのない世代が、読書スタイルを変える!

ネットの普及や、モバイルデバイス利用者の急増などで、出版メディアを取り巻く環境は、激変しています。
出版メディアは、どうなるのか?
東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科・海野敏教授(=写真)に、出版メディアの近未来像について、お話をうかがいました。(聞き手は、「Media & Communication」編集長・よも修一)

東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科 海野敏教授


−−出版メディアのデジタル化について、現状を教えてください。
海野 「執筆・編集・印刷」「流通・販売」「読書」の3つにわけて考えられます。
まず「執筆・編集・印刷」ですが、80年代にワープロが普及して以降、デジタル化は進み、現在までにほぼ完了しています。
次に「流通・販売」は、90年代後半以降、インターネットによるオンライン書店が出現し、かなり進んできました。
比較的新しいタイプとして、オンデマンド出版があげられます。
通常の商業ベースにはのせにくい、需要の少ない本でも、少量生産で販売できるようになりました。

−−「読書」のデジタル化については、いかがでしょうか?
海野 読書のデジタル化は、まちがいなく携帯の力があずかっています。
慣性の法則からいっても、紙をめくって読むという従来の読書スタイルは、そう簡単にはすたれないでしょう。
でも、世代がかわれば、状況はガラッとかわる可能性はあります。
その予兆が携帯小説です。
少し前に大きな盛り上がりみせた携帯小説は、一過性のブームではありません。
次世代の読書スタイルの予兆であると考えています。
本を読まない女子高校生などが、夢中になって携帯小説を読み続けたという事実は、読書のスタイルがかわる可能性を示唆しています。

−−電子ブックが読める端末は、以前から商品化されていました。それらと、最近発売された「キンドル」などとの違いはなんでしょうか?
海野 確かに「キンドル」や「i-phone」以前にも、モバイルデバイスでの読書は行われていましたが、成功とはいえませんでした。
理由はいくつかあると思いますが、コンテンツがネットからすばやく購入できなかった面も、大きいと思います。
その点、キンドルなどはネットからコンテンツをダウンロードできます。
今後、紙の本にこだわりのない世代は、ためらいなくキンドルや携帯などで読書するようになるでしょう。
文字だけでなく、音や映像が区別なく受容される読書スタイルになっていく可能性もあります。

−−今後、出版メディアのデジタル化は、さらに進むと思われます。
海野 図書の近未来について、「参考図書」「記事・論文」「文芸書・人文書」にわけて考えてみましょう。
「参考図書」は、デジタル化が進んでいるのは間違いありません。
中学や高校では、電子辞書の持込OKの学校も多くなっています。
「参考図書」がデジタル化する理由は、
1 デジタル化による検索機能
2 デジタル化による項目間のリンク機能
3 部分しか使わない(全部を読み通さない)という特性
4 コンテンツの規模がきわめて大きいという特性
などがあげられます。

−−「記事・論文」については、いかがでしょうか?
海野 「記事」は新鮮さが重要です。
いまの新聞でも、事実の発生から半日くらいのタイムラグで記事が読めますが、ネットならばもっとはやく読むことができます。
スピードが重要視されるのは、「論文」も同じです。
いちはやく先取権利をもつためには、なるべくはやく公表する必要があります。
特に理系の世界では、論文集はネット刊行というのが流れです。

−−「文芸書・人文書」については、いかがですか?
海野 「文芸書・人文書」は、読み通すことが重要になってきます。
特に文芸書は、読む楽しみも大きいです。
「読む楽しみ」は、紙媒体でないと味わえない要素があります。
「書物」というくらいで、本は「モノ」でもあります。
本は、モノとして、装丁をめでたり、コレクションする楽しみもあります。
ページをめくる手触りや、インクのにおいも、紙の本の大きな魅力です。
こうした楽しみは残っていくかもしれません。

−−ネットが普及し、新聞のあり方も大きく変わってきています。
海野 新聞のネット化は、整理すると2つになると考えています。
ひとつは、読者対象をしぼりこみ専門化・高級化する方向です。
その成功事例がアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルです。
日本では、日経新聞がやろうとしています。
もうひとつは、無料で掲載し、広告収入で収益をあげようというものです。
二極分化するのではないでしょうか。
ネットが普及し、記事の流通も変化しました。
新聞を読まず、グーグル、ヤフーなどのニュースサイトの記事を読む人たちが増えています。

−−ネット上の情報には、クオリティ的に問題のあるものも存在します。
海野 ネットでは、無用無益な情報が圧倒的に多いのは事実です。
その一方、新聞・雑誌以上のクオリティをもったオピニオン記事が増えているのも事実です。
新聞が書かない情報を伝えている記事もあります。
そうしたことを知っている人たちは、ネットから非常に有益な情報を得ています。
そのいい例が、出版業界の人たちです。
彼らは、ネットから得た情報を出発点として記事を書いていることが多いのです。
情報リテラシーが高い人は、ネットと起点として、収集した情報に厚みを加えています。

−−情報リテラシーが、これまで以上に大切になってくるというわけですね。
海野 高い情報リテラシーを持っている人はネットを効果的に活用して、「インフォメーション・リッチ」になっていきます。
反面、情報リテラシーが低い人たちは、ネットが投げかけてくる情報をうのみにしてしまい、「インフォメーション・プア」になってしまう傾向もあります。

−−遠い未来、印刷メディアはどうなってしまうのでしょうか?
海野 本を読むという行為は、われわれのからだの中に、今のところ「身体文化」として残っています。
わたし自身、仕事柄ということもありますが、本や雑誌をとてもたくさん読みます。
紙で読む文化は、そう簡単にはなくならないでしょう。
しかし、世代がふたつ変わると、紙のメディアがどう受け入れられるかはわかりません。
遠い未来は、印刷技術が「アート」としてしか残っていない、ということは、ありえる話です。

>>東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科 海野敏教授HP

(PHOTO,TEXT/よも修一)

 
Copyright (C) M&C Media and Communication. All Rights Reserved.

ホームページテンプレートのpondt