マーケティング

Posted on 2017-04-03
【セミナーレポート】ネットメディア成功の秘訣はどこにある? キーパーソンが議論


セミナーの登壇者。左から、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所所長 吉川昌孝氏、東洋経済新報社 東洋経済オンライン編集長 山田俊浩氏、C Channel 取締役CCO 三枝孝臣氏。

広告会社、経済専門媒体、新興動画メディアから登壇
スマホファーストの時代となり、生活者の行動や価値観が変化し、ネットメディアのあり方も日々変化していると言って言い過ぎではありません。生活者とネットメディアとの関係は、媒体社や広告会社だけでなく、デジタルコミュニケーションに関わる人たちの大きな関心事だと言っていいでしょう。

2017年3月30日、日本印刷技術協会(JAGAT、東京・杉並区)において、メディア業界で今もっともホットなテーマのひとつと言える、この「生活者とネットメディア」についてのセミナーが開催されました。これはJAGATクロスメディア部会3月度ミーティングとして開催されたものです。

セミナーのタイトルは「生活者変化とネットメディア成功の秘訣~モバイルシフト時代のメディアはどうなる~」。登壇したのは、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所所長 吉川昌孝氏、東洋経済新報社 東洋経済オンライン編集長 山田俊浩氏、C Channel 取締役CCO 三枝孝臣氏の3人。ネットメディアのキーパーソンである3人の話は、ネットメディアの価値を高めるためには今どうしたらいいのか、そしてネットメディアはこれからどう進化していくのか、多くの気付きを与えてくれるセミナーでした。

既存媒体の価値が見直されている
博報堂DYメディアパートナーズ 吉川氏は「Changing Media Values ~モバイルシフトで変わるメディア価値」をテーマにプレゼンテーションしました。

同社の2016年の生活者のメディア接触調査によると、総メディア接触時間は10年前に比べ1時間ほど増えています。パソコンが減少し、スマートフォンやタブレットが増えているのが特徴です。特に、20歳代、30歳代はモバイルへの接触が大きく、1日のうち就寝前に一番多く接触しています。

スマホが日本に登場して約10年。登場以降、急激に普及してきましたが、最近は普及率の伸びも踊り場状況になってきました。

プレゼンテーションでは、モバイル接触の多い19歳の女性の自宅に赴き、就寝前、彼女がどのようにモバイル接触しているかを動画で記録し考察した調査結果を披露しました。

女性は、スマホを手放すことはなく、常に動画を視聴。しかしひとつのコンテンツを長い時間見ることはなく、一番長く見た動画でも3分、ほとんどは1分ほどで、どんどん変えていきます。同時に、友人から入ってくるSNSのメッセージに反応していきました。

また、20代男性についても、同じように自宅でどのようにメディア接触しているか録画した結果を披露しました。定額配信サービスを利用していますが、見るコンテンツを7分間もさんざん迷った末に、いつも見ている「クレヨンしんちゃん」を選んだのが特徴的です。ちなみに、先の女性は、いつも大好きな「ワンピース」を見ていました。定額サービスであっても、見たことのない番組を視聴するのではなく、いつも見慣れたコンテンツを選ぶ傾向があることが伺えます。

吉川氏は、調査した若い人たちのメディア接触について「リラックスしているのに忙しい、集中しているつもりが散漫というように、意識と行動にギャップがあった」と分析。「若い人ほど、世の中の情報のスピードが速いという意識を持っている」とも話しました。

テレビや新聞などの4マス媒体は2010年から15年までは影響力がシュリンクしていたものの、16年は持ち直したことを明らかにしました。「モバイルには情報のスピードやボリュームを求め、マス媒体においては、各媒体が本来持っている価値が改めて見直されている」とまとめました。

また、「モバイルファーストと言われているが、モバイル対応だけでも、マスメディアだけでもいけない。両者の価値を掛け合わせることが必要だ」と提言しました。

コンテンツは無料で全文閲覧可能
東洋経済新報社 山田氏は「東洋経済オンラインのビジネス戦略」をテーマに、自身が編集長として携わっている「東洋経済オンライン」のビジネスモデルについて話しました。

「東洋経済オンライン」の特徴は、独自取材した経済関連記事が中心であることを強調しました。ネットで拾ったネタに筆者の感想を少し足しただけの記事を載せるネットメディアがある中で、東洋経済オンラインの特徴は当たり前のことではありますが、大事なことであり、大きな価値を持っています。

「東洋経済オンライン」の読者層は25~44歳が過半数を占めています。一般的にメディアは読者年齢が年々上昇していく傾向にありますが、同メディアは若干ですが若返っているのが特徴です。スマホでの閲読率が80%を超えています。

閲覧するためのID登録は不要で、全記事が無料で読めます。山田氏は「マネタイズの方法としては、最新記事は有料にするなどのやり方もあるが、それよりも無料で読めるようにしてページビューを上げていき、より多くの広告出稿につなげ、広告の単価も上げていきたい」とビジネスモデルについて話します。

記事を他媒体に提供するとともに、他媒体の記事を掲載する「ニュースプラットフォーム」の構築にも力を入れます。「苦労して取材し執筆した記事の中には、ページビューが上がらないものもあります。記事を転載しあうことで、よりたくさんの人の目に触れることになります」と話します。「世の中にあるいい記事をキュレーションする」という考え方があるようです。

「東洋経済オンライン」はビジネスメディアではナンバーワンと言ってよく、今年1月に2億1000万PVを達成しました。山田氏は「まだまだ発展の余地があり、近いうちに3億PVを達成したい」と抱負を語ります。

どうしてこれほどの読者の支持を得たのか。山田氏は「仕組み自体には特に秘密がありません。誰でも真似してできるのもです」と言います。地道に独自取材をして、記事を執筆し掲載していく、ということを言っているようですが、それはできそうでいて、できないことでもあります。

テレビ番組にも無料で記事を提供しています。出版社によっては、テレビ番組に記事を提供する場合、有料にするケースもありますが、無料提供することで、認知を上げ、閲覧者増加につながっています。

記事を他の媒体に提供するビジネスについて、山田氏は「OEMモデル」と「支店モデル」という言葉で説明しました。「OEMモデル」とは、記事の売り切りであり、提供先媒体の記事のページにある広告などから発生する収益は、すべて提供先の収益となります。この場合、収自社の益を上げようとするときは、提供する記事の単価を上げていく方法が一般的です。

これに対して「支店モデル」とは、提供先媒体で発生する広告収入なども自社の収益としていくビジネスモデルです。媒体の本体サイトを「本店」と捉え、提供先媒体を「支店」と捉える考え方です。今後はこのビジネスモデルにさらに注力していく考えです。

「掲載先の媒体において、東洋経済オンラインの記事が読者の目に止まるようにして、その一方で、本サイトは安心感を読者に与えていく役割にしています」と話します。

今後は、読者数をさらに多くし、読者お気に入りの著者の有料メルマガを配信したり、有料セミナーを増やしてビジネスを展開していく考えです。

グローバル展開を着々と進める
C Channelの 三枝氏は「C CHANNELとメディアデザインの今後」をテーマにプレゼンテーションしました。

C CHANNELは、F1層女性向けの1分動画アプリメディア。「女の子の知りたいを1分で解決する」がキャッチフレーズで、2月の再生数は6億6000万回を記録し、現在もっとも勢いのある動画メディアと言っていいでしょう。

動画は縦型のみで、横型は作っていません。縦型なのは、たまたま縦で撮影した動画の訴求力が高かったことがきっかけだといいます。また、女性はスマホを片手で横にして持ちにくということもあります。

スタート当初のコンテンツは、一般女性が作成した日常の出来事を動画にしてアップしていましたが、「女の子たちは、リア充している人の動画はあまり見たくないようでした」と三枝氏は半ば冗談めかして言います。そこで、料理をテーマにした動画を作り始めたところ再生回数が伸び、メイクなどのハウツーものも始めるようになりました。中国で配信するようになり、再生回数は急激に伸びたとのことです。

C CHANNELのビジネスモデルは広告収益、「SUPER C CHANNEL」といったオフラインイベント、タレントなどを起用したインフルエンサーマーケティングをメインに展開。グローバル展開を目指して、現在はアジア各国で、日本同様の事業を行っています。

動画配信は、コミュニケーション型(YouTubeなど)と、エンタテイメントプラットフォーム型(テレビ局など)に分けることができます。C CHANNELはコミュニケーション型に入ります。

また、C CHANNELの特色としては、Facebook、LINE、InstagramなどのSNSを最大限に活用している分散型メディアということも言えます。

C Channelは今年3月31日と4月1日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、オフラインイベント「SUPER C CHANNEL」を開催しました。

C CHANNELで広告展開する企業などがブースを構え、来場者にヘアスタイリングやメイクなどの体験を無料提供。特設ステージでは連日、閲覧者から人気の動画投稿者(C Channelでは動画投稿者をクリッパーと呼びます)が登場しました。会場は入場制限するほどの混雑でした。

三枝氏は「今、メディアの編成権は誰の手にあるのか」を問いました。三枝氏は元テレビマンとして、数々のテレビ番組を制作してきた経歴の持ち主で、「編成権」という言葉を使ったのは、いかにも三枝氏らしいところです。「マスメディアはメディア側にあったが、今は若者は知らず知らずに個人でキュレーション(=編成)している」と三枝氏は言います。

「本来、コンテンツを見るのは、面白いから見るということもあるが、見終わった後などに、ほかの人たちと、見たコンテンツについてコミュニケーションしたいという部分が大きい」と三枝氏は指摘します。その意味で、コンテンツの内容はますます重要になってきています。
 
三枝氏はプレゼンテーションの中で、「砂浜の棒は急に倒れる」というフレーズを紹介しました。その意味は「倒れるのを待つのか、待つのではなく先に倒すべきかを考えることが大切」という意味のようです。

ネットの世界は急激にトレンドが変化します。ネットメディアの価値を高めるためには、「砂浜の棒」を意識しながら、先読みをすると同時に、刻々と変化する状況に素早く対応していけるかが問われています。

☆☆☆

3人のプレゼンテーションが終わったあと、発表者全員が登壇し、参加者との質疑応答&ディスカッション「モバイルシフト時代のメディアの行方」が行われました。

公益社団法人日本印刷技術協会とは
公益社団法人日本印刷技術協会(Japan Association of Graphic Arts Technology:JAGAT)は、印刷に関する技術の開発・向上により、印刷および関連産業の発展、貢献を目的として1967年に創立。2012年4月1日より公益社団法人へ移行登記。

プレゼンテーションの様子。




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