アート

Posted on 2026-02-16
《美術展巡り》開館 30 周年記念 MOT コレクション マルチプル_セルフ・ポートレイト 


2026/2/16
M&C編集部・蓬田修一

東京都現代美術館のコレクション展示室1階でいま「マルチプル_セルフ・ポートレイト」が開催中だ。

タイトルから分かるとおり、ポートレイトをテーマにした企画だ。セルフ・ポートレイト、いわゆる自画像は、描く主体がそのまま描かれる対象となる、この構造そのものがねじれていて、わたしはそこにとても大きな関心を持っているので、この展覧会を見るのをことさら楽しみにしていた。

自画像の歴史は1500年頃のデューラーの自画像から始まったといっていいだろう。500年以上の歴史を重ねてきたジャンルだ。

ルネッサンスからバロック、近代、20世紀、そして現代と、画家はそれぞれの時代時代で、自己の肖像と格闘していた。

今回の展覧会では、アンディ・ウォーホル、森村泰昌といった超ビッグネームをはじめ、松井えり菜、郭徳俊、ユアサエボシ、ミヤギフトシ、開発好明、豊嶋康子、南川史門、横山裕一の作品が展示されていた。

多くの展示作品のなかから、わたしが特に気になった作家と作品を3つだけ紹介したい。

松井えり菜《両人曼荼羅》2023年

松井はこれまで、自画像的なキャラクターを描いてきた。それらの作品はどこか自虐的である。

今回の展示のなかでは《両人曼荼羅》に惹かれた。

両人とは誰と誰を指すのか。自己と他者、表と裏、生と死、などの二項対立を思い起こすが、松井のこの作品は何と何を指しているのだろうか。わたしはよく分からなかったが、「描く自分」と「描かれる自分」の両人なのだろうか。

これまでの鑑賞経験から、現代美術作品を見たときの疑問はそのままにしておいたほうが、精神的ストレスがなくて楽しい、ということを学習しているので、今回の疑問もそのままにしておくことにする。

松井の曼荼羅は、色彩はポップで、人物の描き方には愛嬌がある。神聖と俗、宗教性と大衆文化が同じ平面上で共存しているようだ。

わたしはこの作品から、新しい祈りの形を感じた。

郭徳俊《レーガン Ⅱと郭》1985年

政治性と身体性が鋭く交差する作品だ。

作品では、アメリカ大統領レーガンの顔の上半分と、郭の顔の下半分が強引に併置されている。

世界最強国家の大統領は強大な権力を持つ。その一方で、一般人の郭は権力からは遠い存在の象徴である。レーガンのイメージに郭自身を接続させることで、権力の神話性を解体しようとしたのだろうか。

こうしたシリアスな解釈ができる反面、この作品は何となく滑稽だ。

「大統領」という巨大な存在の顔と、「郭」という力のない者の顔が奇妙に同居しているからだろう。

ミヤギフトシ《軍装姿の自画像》2022年

彼は1981年生まれだが、戦前から生きている架空の「ミヤギフトシ」という人物を設定し、その人物の視点で作品世界を構築している。

「自画像」でありながら、本人ではない、というのがとても面白いし、「架空の本人」という設定は大きな可能性を秘めている手法だと思った。

この作品は事実の再現ではない。フィクションによって歴史へ接近している。

架空の存在を媒介にすることで、ミヤギは「事実」と「想像」の間に立った。

つまりこの自画像は、自分であり、自分ではなく、歴史上に存在しない、イマジネーションのなかの人物である。この自己同一性の揺らぎが、わたしにとっては心地いい。

《両人曼荼羅》2023年
松井えり菜


《レーガン Ⅱと郭》1985年
郭徳俊


《軍装姿の自画像》2022年
ミヤギフトシ


展覧会概要

会期:2025 年 12 月 25 日(木)~2026 年 4 月 2 日(木)※当初予定から会期を変更しています
休館日:月曜日(2 月 23 日は開館)、2 月 24 日
開館時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)
観覧料:一般 500 円 / 大学生・専門学校生 400 円 / 高校生・65 歳以上 250 円 / 中学生以下無料
会場:東京都現代美術館 コレクション展示室


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