アート
Posted on 2024-09-03
REVIEW 「田名網敬一 記憶の冒険」 会場全体に展開する虚実が入り混じった記憶のコラージュ
60年以上の活動を「記憶」をテーマに紐解く
東京・六本木の国立新美術館で「田名網敬一 記憶の冒険」が開催されている。
本展は田名網が手掛けた膨大な作品を紹介することで、これまで包括的に捉えられることがなかった、60年以上におよぶ活動を「記憶」というテーマのもとに改めて紐解こうとするものだ。
田名網敬一の初となる大規模回顧展である。
大変残念ながら、田名網敬一はこの展覧会が開幕して2日後(8月9日)逝去された。享年88。
☆ ☆
田名網は近年、海外文化を独自に受容した戦後日本の作家としても世界的に評価が高まっている。
ニューヨーク近代美術館(アメリカ)、ウォーカー・アート・センター(アメリカ)、シカゴ美術館(アメリカ)、M+(香港)、ハンブルガー・バーンホフ(ドイツ)にも作品が所蔵された。
本展は田名網の膨大な作品群を11の章で構成し、彼が最期まで探究を続けた、虚実が入り混じった記憶のコラージュのような作品世界を余すところなく紹介している。
会場構成は以下のとおりだ。
プロローグ 俗と聖の境界にある橋
この展覧会のための新作《百橋図》を展示。橋は造形的に美しいうえに、俗と聖との境界でもある。
第1章 NO MORE WAR
田名網は1936年に東京・京橋の服地問屋の家に生まれた。
幼少期に経験した第二次大戦の死のイメージは、彼の脳裏に色濃く焼き付けられ、 現在に至るまで作品に大きな影響を与えている。
第2章 虚像未来図鑑
博報堂を退社し、フリーのグラフィックデザイナーとなった田名網は、女性誌や音楽雑誌を手掛けるなか、1969年に「虚像未来図鑑」を出版する。
田名網は本書で、マスメディアが発信するイメージと自身のイラストレーションを大胆に組み合わせ、編集やデザインという既存の概念を超えた創造の可能性を示した。
第3章 アニメーション
1960年代に入り 田名網は アニメーション作家の先駆的存在であった久里洋二の作品に刺激を受け 自身も久里の工房で 映像制作を学ぶ。以降、田名網は断続的にではあるが映像作品の制作を現在まで続けている。
第4章 人工の楽園
80年代は、以前のポップアートから影響を受けた作風から一変し、鶴、亀、虎といったアジアの吉祥文様や摩天楼が漂う奇妙な楽園世界を絵画、版画、立体といった多様なメディアで表現するようになった。
第5章 記憶をたどる旅
1990年頃からドローイングという手法を使って、自分自身の記憶の検証を試みるようになった。
夕飯が終わった夜8時から部屋にこもり、子供の頃のようにちゃぶ台でドローイングを描く作業を継続した。
第6章 エクスペリメンタル ・フィルム
1970年にニューヨークを訪れた際、当時盛んに上映されていたケネス・アンガー、アンディ・ウォーホル、ジョナス・メカスのアンダーグラウンドなインディペンデント映画に大いに刺激を受け、実験映像の制作にも着手する。
第7章 アルチンボルドの迷宮
田名網はアルチンボルトを好んでおり、この章ではアルチンボルドの作品を引用して作られた立体作品とともに、田名網のアトリエの一部を再現した小屋のインスタレーションが展示されている。
第8章 記憶の修築
2012年に発見した自身の過去のコラージュに触発されて、カンヴァスを使用したコラージュ作品を制作するようになった。
また、田名網が一時期記していた夢日記とスクラップブックが入った「記憶の修築」と題された温室が置かれている。
第9章 ピカソの悦楽
ふとしたきっかけでピカソの模写を始めた田名網は、目的も締め切りもなく、ひたすら形と色を描き写すという単純な行為に、思いがけない悦びと楽しさを覚え、たちまち 夢中になった。
第10章 貘の札
第10章 「貘(ばく)の札」とは、枕の下に敷いて寝ると縁起の良い夢が見られるという札である。田名網にとっての「貘の札」とはどういうものであるのか?
第11章 田名網敬一×赤塚不二夫
若い頃、田名網は漫画家を目指し、漫画誌に投稿していた。同じ頃、赤塚不二夫もまた常連の投稿者であった。赤塚の没後、ようやくふたりのコラボレーションは実現した。
エピローグ 田名網キャビネット
最終章は田名網の60年以上にわたる活動の中で、アートディレクションを手掛けた書籍、レコード、グッズなどのコラボレーションアイテムを紹介する。
☆ ☆
各章のタイトルを見ても分かるように、今回の展覧会では田名網の活動のほぼ全容が掴めるようになっている。
会場での写真撮影は可能となっている。
田名網敬一 記憶の冒険
会期 2024年8月7日(水)~11月11日(月)
休館日 毎週火曜日
開館時間 午前10時~午後6時
※毎週金・土曜日は午後8時まで
※入場は閉館の30分前まで
会場 国立新美術館 企画展示室1E
観覧料 一般2000円、大学生1400円、高校生1000円
※中学生以下は入場無料。
※障害者手帳を持参の場合(付添の方1人含む)は入場無料
展覧会ホームページ https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/
※掲載写真はすべて、8月6日に行われた内覧会で撮影した展示風景。
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