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Posted on 2025-03-09
動物をテーマにした西洋絵画 傑作10選
動物をテーマにした絵画はこれまで、写実的なものから幻想的なものまで様々に描かれてきた。
ここでは16世紀から20世紀初頭まで、動物をテーマにした作品または動物が描かれた作品のうち、傑作10選を紹介する。
作品紹介のあとには、西洋絵画史における動物絵画の特色について説明したので、興味があるかたはぜひ読んでほしい。(M&C編集部 蓬田修一)
ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ 《東方三博士の礼拝》(1423年)
ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノは、イタリア中部ファブリアーノで生まれ、イタリア各地で活躍した画家。
東方三博士の礼拝を描いたこの作品では、背景に描かれた馬や牛、犬などの動物が細密に描かれている。
アルブレヒト・デューラー《野兎》 (1502年)
アルブレヒト・デューラーは神聖ローマ帝国内の帝国自由都市(皇帝直属の都市)であるニュルンベルクで活躍した。
《野兎》は非常に精緻な水彩画で、リアルな描写が特徴的。
ルーベンス《ライオン狩り》 (1621年)
バロック絵画の特徴であるダイナミックな表現が際立つ作品。
人間、馬、ライオンが複雑に絡み合い、見るものにまるで狩りの最中にいるような感覚を与える。
パウルス・ポッテル 《若い牡牛》(1647年)
パウルス・ポッテルは17世紀前半オランダの画家。
はじめは宗教画や神話画を描いたが、のち動物を多く描くようになった。
結核のためアムステルダムで、28歳の若さで亡くなった。
牡牛は、オランダ人には富裕さの象徴であった。
オランダ黄金時代の絵画において、馬とともに最もよく描かれた動物である。
ジョージ・スタッブス《ホイッスルジャケット》 (1762年)
ジョージ・スタッブスはイングランドの画家。
リバプールに生まれ、ロンドンに移り住んで、馬をはじめとする動物を描いた。
絵画の仕事をしながら、病院で解剖学も学んでいる。
この作品は、イギリスにおける馬の肖像画の傑作。背景を省略し馬の姿を強調している。
エドウィン・ランドシーア《救出成功》 (1856年)
エドウィン・ランドシーアはイングランドのロンドンで生まれ育った。
国民的画家であり、亡くなったときは、ロンドン各地で半旗が掲げられた。
ランドシーアは犬を描かせれば右に出るものがいなかった。
ギュスターヴ・クールベ 《雪の中のキツネ》1860年
雪の中で狐は獲物を捕らえた。食いちぎられているのは、恐らく小鳥であろう。
この絵は、自然のありのままの美しさとともに、自然世界の残酷さを捉えた一瞬が表現されている。
クールベは1819年、スイスとの国境に近い小さな町、オルナンに生まれた。
写実主義(レアリスム)を標榜した彼は、理想化された架空の情景ではなく、自然のあるがままの姿を描いた。
ルソー《飢えたライオン》 (1905年)
作品の正式名称は《飢えたライオンは身を投げ出してカモシカに襲いかかる》というもの。一般には単に《飢えたライオン》と呼ばれる。
ジャングルの中で獲物を襲うライオンを幻想的なタッチで描いた作品。
ルソーは19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家。
伝統的な絵画の教育を受けず、独学で絵を描いた。
ピエール・ボナール 《手すりの上の猫》 1909年
ピエール・ボナールは、19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの画家。
彼の画風はナビ派と呼ばれる。ナビとはヘブライ語で預言者のことだ。
室内の風景など身近な題材をテーマに描いた。
フランツ・マルク《青い馬Ⅰ》 (1911年)
フランツ・マルクはドイツの画家。ドイツ表現主義美術を代表するひとりだ。
ドイツ表現主義は、1920年代に隆盛した芸術運動。客観的表現を排し、主観的表現に主眼を置く。
馬の青色は心の平和や静穏、そして物質主義と闘う精神主義をも表している。
西洋美術史における動物をテーマにした絵画の変遷
西洋美術史における動物をテーマにした絵画は、時代や地域によって異なる特徴を持っており、以下のように分類できる。
時代を追うごとに、動物は単なる写実から象徴、そして個人的・幻想的な表現へと変化していったといえる。
宗教・神話における動物(中世以前)
中世ヨーロッパの宗教画では、動物は象徴的な意味を持つことが多い。たとえば、羊はキリスト、鳩は聖霊、ライオンは力や王権の象徴とされた。
ギリシャ・ローマ神話では、ゼウスの鷲、ポセイドンの馬など、神々と結びついた動物が描かれた。
写実的表現と狩猟の場面(ルネサンス~バロック)
ルネサンス期には、動物も人間と同様に解剖学的に正確に描かれるようになった。
バロック時代には、狩猟画が流行し、宮廷の権威を示すために猟犬や鹿が劇的に描かれた(ルーベンス、スナイデルスなど)。
動物画の独立したジャンル化(18~19世紀)
18世紀以降、動物画は独立したジャンルとして発展した。
著名な動物画家として、イングランドのジョージ・スタッブスがいる。彼は馬を中心に精密な動物画を描いた。
19世紀にはロマン主義の影響で、ドラマティックなライオンや虎の戦いの場面(ドラクロワなど)が好まれた。
印象派とポスト印象派における動物
印象派の画家たちは、自然の中の動物を軽やかな筆致で描いた。
ポスト印象派ではゴーギャンがタヒチの風景の中に動物を描き、装飾的な要素として用いた。
20世紀以降の動物表現
20世紀になると、動物は象徴的・抽象的な表現に移行する。
ピカソの鳩は平和の象徴、シャガールの浮遊する動物たちは夢幻的な世界観を表現している。
シュルレアリスムでは、ダリの「燃えるキリン」のように、幻想的な動物表現が登場した。
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