アート
Posted on 2018-10-07
【美術展レビュー】「マルセルデュシャンと日本美術」デュシャンの全貌に近づく
2部で構成する展覧会
マルセル・デュシャン(1887-1968)は、伝統的な西洋芸術の価値観を大きく揺るがし20世紀の美術に衝撃的な影響を与えた作家です。
今回の展覧会は2部構成です。
第1部は「デュシャン 人と作品」展。フィラデルフィア美術館が企画監修する国際巡回展です。
同館がコレクションするデュシャンの油彩画、レディメイド、関連資料写真など約150点によって、彼の創作活動の足跡が紹介されています。
第2部は「デュシャンの向こうに日本がみえる。」展です。
東京国立博物館の日本美術コレクションで構成されています。
西洋とは異なった社会環境の中で作られた日本美術の意味や価値観を、デュシャンの作品と比べながら浮かび上がらせようという意欲的な展示です。
デュシャンの作品を日本美術と比べて紹介するのは、世界で初めての試みです。
冒頭の写真は第1部「デュシャン 人と作品」展の入口入ってすぐの展示風景です。以下の写真は、第1部の会場風景です。
「デュシャン 人と作品」展
第1部「デュシャン 人と作品」展はデュシャンの没後50年を記念して開催されるもので、全4章で構成されます。
第1章は「画家としてのデュシャン A Painter’s life」。
1902年から1912年まで画家として活躍したデュシャンの実績を追います。
デュシャンは印象主義から象徴主義、そしてフォヴィスに至るまで様々な前衛的な様式に実験的に取り組みました。
第2章は「芸術でないような作品を作ることができようか Can works be made which are not ’of art’?」。
この章では、デュシャンが絵画制作をやめてから、その後どのように進んだか、1912年から1917年までの活動をたどります。
この時期、デュシャンは伝統的に理解されていた絵画の枠を押し広げそこから飛び出しました。
彼の最も重要な傑作のひとつ《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称『大ガラス』)を構想したのはこの時期です。
また、いわゆる「レディメイド」と呼ばれる作品群を制作し始めたのもこの時期でした。
第3章は「ローズセラヴィ Rrose Selavy」。
このセクションでは、1920年代および30年代のパリ滞在、そして第二次世界大戦中に亡命者として過ごしたニューヨークでのデュシャンを取り上げています。
1921年、彼は職業を芸術からチェストへ転換しようと言い始め、プロのチェスプレーヤーであるかのようにチェスに没頭しました。
また1920年代には自らの分身として「ローズセラヴィ」と名付けた女性に扮し、この人格のもと、ダジャレや語呂遊びなどの言葉の実験を試み、新たな制作に取り組みました。
一方で、この時期デュシャンは、ニューヨークでの反芸術活動ダダと活発に交流しました。
1930年代半ば、デュシャンは自分自身の作品を「複製」という形で再構成することに興味を持ち、トランクの中の箱としても知られる作品のミニチュアからなる携帯用の美術館を生み出しました。
第4章 は「遺作 Our Lady of Desire 1950s-60s」。
最後のこのセクションでは、デュシャンが芸術の世界、そして広く文化人として伝説的な地位を獲得した最後の20年について紐ときます。
《1. 落ちる水 2. 照明用ガス、が与えられたとせよ》(通称『遺作』)はデュシャンとフィラデルフィア美術館との関係を大変よく示す作品です。
『遺作』を映像で紹介するとともに、制作に至るまでのデュシャンのアイデアノートやメモ類、さらに『遺作』の一部となったオブジェや展覧会の写真などを展示します。
「デュシャンの向こうに日本がみえる。」展
第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」展は5章で構成されます。
第1章は「400年前のレディメイド」。
千利休の《竹一重切花入(たけひとえきりはないれ) 銘 園城寺(おんじょうじ)》、長次郎の《黒楽茶碗 銘 むかし咄(ばなし)》といった、400年前に作られた究極の日常品いわゆるレディメイドを展示します。
究極の日常品(レディメイド)と言えるでしょう。
第2章は「日本のリアリズム」
江戸時代の浮世絵師東洲斎写楽屋喜多川歌麿などの作品を展示します。
古来日本の絵画では記号化された形象によって事物を表現していました。
視覚的なリアリズムがほとんど求められていなかったわけです。
しかし、江戸時代の浮世絵師・写楽などは伝統的な絵の描き方を学ばなかったために、女形を演じる役者を男として描くなど、歌舞伎役者を見たままに描こうとして非難されました。
第3章は「日本の時間表現」。
日本の絵巻物は独自の発展を遂げました。
特に「異時同図(いじどうず)」 という描写方法は、同じ風景や建物の中に同一人物が何度も登場して時間や物語の経過を表します。
ここでは《国宝 平治物語絵巻 六波羅行幸の巻》を展示して、登場人物が何度も描かれ、時間の経過を示していることを紹介します。
第4章は「オリジナルとコピー」です。
普通は唯一無二の一点物にこそ芸術としての価値があるものと考えられていますが、近世以前の日本では前例にのっとり模倣が当然のように行われていました。
日本画壇に君臨した狩野派の絵師たちも、連綿と書き続けられた点をもとに多くの絵画を制作して行ったのです 。
第5章は「書という芸術」。
東洋において、書は造形の最上位に置かれましたが、日本では絵画や工芸とも密接に関わりました。
本阿弥光悦の書と伝えられ、俵屋宗達が書いた桜山吹図屏風などを展示します。
今回の美術展は、第1部および第2部を通して、芸術を「見る」ことではなく「考える」ことから得られる“知的興奮”が得られるでしょう。
下の写真は《竹一重切花入 銘 園城寺》の背景に会場風景が写っています。
特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」
会期 2018年(平成30年)10月2日(火)から12月9日(日)まで
会場 東京国立博物館 平成館
開館時間 9:30~17:00
※ただし、金・土曜日、10月31日、11月1日は21:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
※ただし10月8日(月・祝)は開館、翌9日(火)は休館
観覧料金 一般1200円(900円)円、大学生900円(600円)円、高校生700円(400円)、中学生以下無料
※( )内は20人以上の団体料金
http://www.duchamp2018.jp/
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