アート
Posted on 2025-05-24
夏の西洋絵画 《夏》または《ルツとボアズ》ニコラ・プッサン(1660年頃)
フランス絵画の巨匠、ニコラ・プッサンは晩年、四季をテーマにした連作を描いた。本作はその中の1点である。
プッサンは、「旧約聖書」の印象的な場面を春夏秋冬にあてはめ、作品化した。
《春》はアダムとイヴ、《秋》は約束の地カナンのブドウ、本作《夏》はルツとボアズ、そして《冬》はノアの大洪水を描いた。
死の直前に描いたこれら連作は一種の遺言であり、画家としての一生をかけた芸術的な探求の総まとめといわれている。
本作だが、「旧約聖書」のなかの「ルツ記」 の物語である。寡婦ルツは姑のナオミとともにベツレヘムに移り、生活のために落穂拾いを始める。
落穂拾いとは、畑を持たない寡婦や外国人が収穫し終えた後の落穂を拾い、食料とすることである。貧困者への救済制度であった。
ルツは亡き舅エリメレクの従兄弟ボアズの畑で落穂拾いをし、ボアズは懸命に働くルツの姿に惹かれてふたりは結ばれることとなった。
☆ ☆
本作を見てみよう。画面には、豊かに実った穀物畑が描かれている。
農民は穀物を刈り、前景左端の女たちは昼食用のパンを用意している。
パンは、聖餐の儀式に用いられるイエス・キリストの身体の象徴である。
画面右側には男が座って楽器を奏でている。
人物がおり、労働者たちを楽しませている。その背後では、古代風の5頭の馬が鞭を手にした男に追い立てられている。
遠くには、おそらくルツの故郷であるペトラの街並みと、高くそびえるシナイ山が見える。
画面下の中央に、頭にターバンを巻いて、豊かな身なりをして立っているのがボアズである。
若い寡婦であるルツは彼の足元に跪き、落穂を拾わせてくれるようにお願いしている。
ボアズは目の前にる槍を持った監督者に向かって、ルツがだれにも邪魔されずに働けるよう見張るよう命じている。
☆ ☆
ニコラ・プッサンについて少しだけ説明しておこう。
プッサンは、ルネサンス期のラファエロやティツィアーノに影響を受けながら、理性と秩序を重んじる古典主義的絵画を確立した。
構図の厳密さ、色彩の抑制、感情表現の節度などは、フランス古典主義の理想像とされる。
感情より理性、激情より均整を重んじた画家であった。
ヨーロッパ美術の中で「思想する画家」として位置づけられる。
宗教や神話の主題を通じて、人間存在や道徳、死生観を理知的に描いた。
彼の作品は、西洋絵画の精神的骨格のひとつを形成している。
(M&C編集部 蓬田修一)
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