アート

Posted on 2022-05-19
「歌枕 あなたの知らない心の風景」 日本人の心の風景「歌枕」をテーマにした展覧会



《吉野龍田図》(左隻)
六曲一双 江戸時代 17世紀 根津美術館 


 
特定のイメージと結びつけられた土地や地名=「歌枕」
サントリー美術館(東京・六本木)で、2022年6月29日から8月28日まで「歌枕 あなたの知らない心の風景」が開催されます。

古来、日本人にとって形のない感動や感情を、形のあるものとして表わす手段が和歌でありました。

自らの思いを移り変わる自然やさまざまな物事に託し、その心を歌に表わしていたのです。

ゆえに日本人は美しい風景を詠わずにはいられませんでした。

そうして繰り返し和歌に詠まれた土地には次第に特定のイメージが定着し、歌人の間で広く共有されていきました。

そして、ついには実際の風景を知らなくとも、その土地のイメージを通して、自らの思いを表わすことができるまでになるのです。

このように和歌によって特定のイメージが結びつけられた土地、それが今日にいう「歌枕」です。

こうしていわば日本人の心の風景となった歌枕は、その後美術とも深い関わりをもって展開します。

実景以上に歌枕の詩的なイメージで描かれてきた名所絵や、歌枕の意匠で飾られたさまざまな工芸品などからは、歌枕が日本美術の内容を実に豊かにしてきたものであることに気づかされます。

しかし、和歌や古典が生活の中に根付いていない現代を生きる私たちにとって、歌枕はもはや共感することが難しいのではないでしょうか。

この展覧会では、かつては誰もが思い浮かべることのできた日本人の心の風景、歌枕の世界をご紹介し、日本美術に込められたさまざまな思いを再び皆さまと共有することを試みます。

展示構成
第一章:歌枕の世界

日本美術では、しばしば桜と楓を描く作品を、古くからの名所である「吉野」と「龍田」を描いたものとして説明しています。

同様に薄(すすき)の生い茂る原野に月が沈む光景は「武蔵野」、川にかかる橋と柳、水車の組み合わせは「宇治」などとされています。

いずれの場合も、写真や写実的な風景画を見慣れた目からすると、特定の場所を描いたにしては象徴的な表現であることに戸惑いを覚えるかもしれません。

しかし、長らく日本の名所は目に見える実景以上に、和歌の詩的なイメージによって表わされる伝統があったのです。

そして、そのイメージの源泉となっていたものこそが「歌枕」でありました。

第二章:歌枕の成立
「歌枕」は、古くは和歌に使用される言葉全体を指し、地名はその一分野に過ぎませんでした。

しかしその後、それらの地名は繰り返し詠み継がれることで特定のイメージが定着し、自らの思いを表わすための重要な言葉や技法として、歌人の間で広く共有されるようになります。

そうして歌枕は、平安時代末ごろには「和歌によって特定のイメージが結びつけられた地名」の意味に限定されるようになりました。

このように、歌枕は実在の景勝地というよりも、歌人の間で共有された心の風景という側面が強く、和歌の中にだけ存在した想像上の名所ともいえるものでした。

そこで歌枕の重要な典拠とされたのが『古今和歌集』などの勅撰集です。

勅撰集は天皇の命で編纂される公的な和歌集であることから、その中で詠まれた土地が歌枕として特に重視されていくのです。

この章ではこうした歌枕の歴史を、まさに歌枕が成立していく過程にあった平安時代の古筆を通して概観します。

第三章:描かれた歌枕
本来、和歌を詠むための地名であった歌枕ですが、早くから美術と深く関わりながら展開していきました。

特に注目されるのは、日本における名所絵の歴史が、歌枕を描いた平安時代のやまと絵に始まるとされていることでしょう。

平安時代初期の10世紀、屏風絵に対して和歌を詠む「屏風歌」が流行し、名所を描いた屏風にも和歌が詠まれるようになりました。

当時の作例は現存しませんが、実景を描いた風景画というよりも、歌枕のイメージ世界が散りばめられた景物画であったとみられています。

そして鑑賞者は、屏風に添えられた和歌によって絵の内容を補いつつ、さまざまなストーリーを想像することを楽しんでいたのです。

屏風歌の流行は11世紀には終わりを迎えますが、風景ではなく、その土地を象徴する景物で表わされる歌枕と絵画の関係は、時代が変わっても何らかの形で意識され続けました。

第四章:旅と歌枕
歌枕は、そのイメージや知識によって「居ながらにして名所を知る」ことができたため、実際の風景を見なくても和歌を詠むことができるものでした。

しかし、それはむしろ現地への憧れを強めることにもなり、歌枕への旅を行う人々が現れます。

なかでも、西行法師の旅は後世の歌人に大きな影響力を与え、西行の旅を追体験することがたびたび試みられました。

一方で、実際に旅に出ることが難しい人々にとっても、歌枕は疑似的な旅を体験することを可能にするものでした。

歌枕のイメージ世界を江戸時代の風俗に置き換えた浮世絵や、歌枕の景観を模した庭園などを通して、過去と現在をつなぐ「居ながらにして名所を知る」旅を楽しむことができたのです。

第五章:暮らしに息づく歌枕
歌枕は実際の風景よりも、その土地を象徴する景物によって表わされてきた歴史があることから、デザイン化されやすい性質を持ち、多くの器物の意匠に取り込まれてきました。

なかでも「書く」という行為で和歌にゆかりの深い硯箱において、歌枕由来のデザインは高度に発達し、数々の名品が伝えられています。

そのほか家具や陶磁器、茶道具といった調度品から身にまとう染織品に至るまで、さまざまな分野の装飾に歌枕のデザインが用いられており、かつては身の回りに歌枕があふれていた様子がうかがえます。

本章では、歌枕がデザインされた多種多様な工芸品を通して、かつて日本人の暮らしの中に歌枕が息づいていた様子を概観するとともに、和歌が身近な存在でなくなった今、再び歌枕の世界を共有することを試みます。
 
 
歌枕 あなたの知らない心の風景
会場 サントリー美術館
会期 2022年(令和四年)6月29日(水)から8月28日(日)まで
※作品保護のため、会期中展示替があります。
※会期は変更の場合があります。最新情報はサントリー美術館ウェブサイト(https://www.suntory.co.jp/sma/)でご確認ください。
開館時間 午前10時~午後6時
※金・土および7月17日(日)、8月10日(水)は午後8時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
※開館時間は変更の場合があります。最新情報はサントリー美術館ウェブサイト(https://www.suntory.co.jp/sma/)でご確認ください。
休館日 火曜日(ただし8月23日は午後6時まで開館)
入館料 一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料(前売:一般1300円、大学・高校生800円)
※サントリー美術館受付、サントリー美術館公式オンラインチケット、ローソンチケット、セブンチケットにて取扱
※前売券の販売は展覧会開幕前日まで
※サントリー美術館受付での販売は開館日のみ
割引 あとろ割:国立新美術館、森美術館の企画展チケット提示で100円割引
※割引適用は1種類まで(他の割引との併用不可)
  
  

《吉野龍田図》(右隻)
六曲一双 江戸時代 17世紀 根津美術館 


 

重要文化財
《寸松庵色紙「ちはやふる」》 伝 紀貫之 一幅 平安時代 11世紀 京都国立博物館 


 

《大和名所図画帖より和歌の浦》 狩野栄信・狩野養信 一帖 江戸時代 19世紀 京都国立博物館 


 

重要文化財
《小倉山蒔絵硯箱》 一合 室町時代 15世紀 サントリー美術館 


 

  
              




 

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締め切りは、2022年6月28日24時です。

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